北海道・十勝地方、遠望には日高山脈を臨む都市にこの住宅は建てられました。この都市の特徴は、ほぼ正確に東西南北に軸をもって構成されていること。敷地はそんな街の住宅地にあり、つまり東西南北いずれかに角度をもたずに接道するということになります。間口の広い日当りの良い南向という条件は多くの人が望むもの。日照時間の少ない北国なら尚更です。しかしこの計画地は敷地南側で接道していたのです。そこでまず建築家は、道路の境界線に平行になるよう敷地を4つにレイヤー化し、 それぞれをパブリックゾーン、プライベートゾーン、子供達のゾーン、大人 達のゾーンと分けていきました。そうして完成したのがこちらの「或る住宅地のヴィラ」。「贅沢さ」がこの住宅を紐解くキーワードです。手掛けたのは札幌市に拠点を置くMooS/ムース。さっそく見ていきましょう。
先ほどの大開口部の内部がこちらのリビングルームです。圧倒的なスケールを感じさせるこちらの空間で、まず目に飛び込んでくるのが正面の壁。細長いウッドパネルの壁は天然素材ならではの様々な色彩で、温もりや豊かさ、美しさや強さを空間に与えています。やや暗めの中間色を中心にまとめられたこちらの部屋ですが、単に暗かったり寂しい印象にならないのは先述した壁を始め、上質な天然素材とシンプルで質の良いデザインのみを使用しているから。吹抜けの天井にぽつんと吊るされたエッジの効いたシャンデリアがポイント。
キッチン&ダイニングルームは閉じられた空間が親密さを生んでいます。インテリアはとことんシンプルに、その分照明の位置と数にこだわることで魅力的なダイニングルームとなっています。
この住宅の動線は実は敢えて複雑に設計されています。リビングから書斎に行くためには階段を上り、Uターンしてブ リッジを渡り、寝室を抜けて再びブリッジを渡る必要があります。ほとんどのクライアントが機能的な動線による快適な住宅を望む中、なぜ複雑なものにしたのでしょうか。建築家は言います「ヴィラとは贅沢であり、贅沢とは面倒くさいことである。これは住宅を設計したものではなく、いちいち面倒くさい空間体験を設計したのであり、そこに価値を見出してくれたクライアントの生活と贅沢を設計したものである」と。